ふわり、色鉛筆
32
 
 
 
「やっぱり、やり直さないか、もう一回」
 
驚きに、手のグラスを取り落しそうになった。握るように持ち、冷えたお茶を口に運ぶ。喉にやってしまうと、返事をするのが馬鹿らしくなった。
振り返れば、夫は真面目な顔をしてわたしを見返した。ちょっと笑みを浮かべ、
「考えれば、元に戻るのが一番、誰にとってもいいんじゃないかって思って…」
よくもまあ…。
今更こんなことをしれっと口にする。その厚顔さに、あきれよりも生理的な嫌悪が強い。まだ続きそうな彼の声を遮った。
「わたしはそうは思わない」
彼が飲み終えた空のグラスを受け取り、自分のと一緒にシンクに置いた。
「お前が怒る気持ちもわかる。俺は勝手に実家に帰ったし、総司のこともお前に任せっきりで…」
「自分の子じゃないんでしょ? 勘弁してほしいんでしょ? もう気安く名前を呼ばないで」
弁護士が入り、問題が片付けば、自分が思いのほか不利になった。せめて半分は残ると思った病院との和解金は、びっくりするくらい目減りした。それが惜しくなり、焦ったのだろう。焦ったのは、夫ではなく姑かもしれない。
底の見え過ぎる言動に、自分が芯から甘く見られ、馬鹿にされているのを感じた。復縁をほのめかせば、嬉しがってわたしがそれに乗っかると思っているのか。
「…いい加減、お互い許し合おう。大人になろうぜ」
はあ?
話が通じない。
この彼を相手に、思いをぶつける気にも、口論をする気もならない。
「もう遅い。終わったの。わたしたちは、おしまい」
それで、会話の窓を閉めたつもりだった。じき、この場にダグが来てくれることを口にしようとして、止めた。それまで居座るのなら、せいぜい、びっくりすればいい。
彼から顔を背け、壁を向いた。緩く腕を組む。肩の辺りにじっと視線を感じた。
「お前に男がいたのは、知ってる。金持ってるらしいな、そいつ」
言葉にびくりとなった。けれど振り返らず、唇をそっと噛んで、驚きをやり過ごした。「知ってる」が、どこまで沖田さんに迫っているのか、それが気にかかった。確証があるのかもしれないが、はったりかもしれない。
黙ったままでいれば、夫はわたしの肩に手を伸ばした。振り向かせるように引き寄せる。
「手軽な女だと、遊ばれてるんだ。誰が、本気になる? 子供もいるおばさんに。目を覚ませよ」
「許してやるから。間違いくらい、もういいから…」。夫の言葉はそう続いた。夫の手から抗い、離れた。黙ったまま距離を置けば、彼はわざとらしいため息をついた。
聞き分けの悪い女のわがままに手こずっている、でも寛大な俺。彼の中での自分、こんな感じだろうか。小芝居を心で嗤っていると、
「男の会社に乗り込むこともできるんだぞ、大事な家庭を壊されたってな」
次の手に、息を飲んだ。まさかと、思い、だが最後の手段となれば、そんな無茶もするかもしれない、とも思う。夫にすれば正当な権利で、失うものは少ない。
そんなことになれば、沖田さんに大きな迷惑がかかる。
そこまでつかまれていることに、怖くなった。弁護士に相談もしたのだろう、興信所でも使って、わたしの身辺を調べたのかもしれない…。
どうしよう。
息がつまった。
「おかしいとは思った。ブランド品の包みを持って帰るし、気に入って通ってたパートを急に辞めるだろ? そうだよな、レジに立って稼がなくったって、社長からお手当てが出るんだったら、そっちの方が楽だよな」
は?
社長?
そこでやっと、わたしは顔を上げた。夫を見る。意味がわからないのだ。
目が合えば、彼は何もかものみ込んだ、余裕のある表情をしていた。
「その頃からだよな、お前が強気になってきたの。漫画描くだの、それを売るだの言い出して…。社長から甘いこと言われて、いい気になってたんだろ? 自分にも何かができる、まだ遅くない、とかな…」
「まだ遅くない」。その言葉に聞き覚えがあった。確か、いつか沖田さんからもらった励ましだった。思いがけなくて、それが嬉しくて、涙ぐんだのを忘れていない。
まあ、それは置いておいて。
ここまで聞き、夫が壮絶な勘違いをしていることに気づいた。身体の関係こそないが、わたしは不倫をしている。しかし、相手が違う。
どこでどう、逸れたのか。夫はなぜか、以前のパート先の社長をその相手としているのだ。あ然とし、すぐにほっと、大きな安堵がやって来た。正式な調査をした訳ではないのだ。大丈夫、沖田さんにまで辿られてはいない。
落ち着けば、おかしさが込み上がる。何がどうして、あの社長と…。まあ、言い寄られてはいたけどね。
「主婦が客層のメインのスーパーに、社長がパートと不倫のスキャンダルは痛いだろ。そんなこと知られてみろ、売り上げに大打撃じゃ…」
「言ってみれば? 追っ払われるだけだよ。そんなデマ、名誉棄損で訴えられるかも。あそこ、コーヒーショップも展開してて、社長やり手みたいだよ」
遮って言い返す。へろっとしたそれに、夫が驚きの顔をしてこちらを見た。まさか、こんな言葉を返されるとは思っていなかったようだ。
「言ってみれば?」と、茶化すように返したが、実際あの社長に夫が会えば、沖田さんに通じる恐れがある。わたしといるところを、二度、しかも滅茶苦茶濃い状況で見られてしまっているのだから。
でも、弱気を見せるのはまずい。たとえ、社長から沖田さんの影なりを耳にしたとしても、彼へはつながらない。「知り合い」で突っぱねれば、逃げ場はある。証拠などないのだ。
浅ましく計算しながら、つんとした表情を作り、夫を見返した。
「いいんだな? 本気だぞ。お前らが会ってるのを、見た人間もいるんだ。そうやってごまかそうったって、すぐにボロが出…」
「出ないよ、ボロなんか。大体、見たって、何を? 誰が?」
「いや…、誰かは言えない。その人に迷惑がかかるし…」
「その人、嘘ついてるかもよ。適当なこと言って、人の家庭に波風立てるのを楽しむ人もいるしね。本人には内緒に、とか言われたんでしょ? 言ったことの責任逃れの口上だよ」
「見たんだよ、とにかく。お前が、男と会ってるのを」
心中、息をのみつつ、夫を見たまま「ふうん」と返した。
「どこで?」
「その辺だよ、街中の…、公園か、駅前の」
それでぴんときた。「誰か」がわたしと沖田さんと一緒いるのを見たのは、風俗まがいのバイトの帰りだ。あの社長にバイト先にやって来られ、あわや、と言うピンチを沖田さんが救ってくれた、あのときのことだ。
多分、「誰か」とは、お隣りの奥さん辺りだろう。わたしの顔を知り、夫にそんな話ができる噂好きな人など、滅多といない。しかし、それがどうして社長に…。
「街中で人に見られる中、誰か男性と話して、それが不倫? 道を訊かれただけかもしれないよ」
「親しげにしてたって、聞いた。何か食ってたって…」
ああ、ガリガリ君ね。沖田さんが買ってくれたっけ。
「わたしは駅前で、昔の同級生とも話せないの? で、何でその人が、あのパート先の社長になるの?」
沖田さんの素性を隠して、さらっと偽った。夫はそこで言いよどむ。彼なりの推理で、相手をあの社長に絞ったのだろう。わたしの交際範囲など、ごく小さい。
事実言い寄られていたので、イタリア土産のブランドバックはもらったことがある。すぐに返したが、一時それは家にあった。不似合に、目立ったのかもしれない。まあ、隠しもしなかったから。
しかし、本気で社長に問い詰めでもしたら困る。ブランドバッグに言及することなく、わたしは社長との不倫関係を否定した。これは真実だから、強気のまま言い切れた。
夫は何か、言葉を探しているようだった。わたしへかけた疑いを詫びることもしない。いつかの段階で、わたしが先に彼を裏切っている。だから、謝ってほしいなどとも思わない。
視線を泳がせ、次の言葉を言いあぐねる彼を見ながら、わたしへの気持ちなど、さらさらないのだろうと感じた。わたしの不倫を許してやると、復縁を口にしながら、不貞の事実がないと知れば、うろたえたように言葉をなくす。
まるで、わたしが不倫していたと告白された方が嬉しいかのよう…。
あ、と思う。
そこで、彼が言った「会社に乗り込む」が、ふとつながった。多分、それはわたしへの脅しだ。そうされたくなければ、和解金の取り分を考え直せ…。そんなところだろう、と。
どんな思いがあるにしろ、あっさりと総司を切り捨てた人だ。復縁など望むはずがないのだ。
彼がほしいのは、簡単に手に入らない額のお金だ。誰の種かわからない子供と、それを産んだ妻のいる家庭ではない。
敢えて口にしたのは、拒否されるのを見込んだ上で、わたしの様子を探るつもりだったのかもしれない。
その後、不倫の証拠(うさん臭い)を突きつけ、動揺させておいて、相手の「会社に乗り込む」との決めぜりふだ。それでわたしが降参するはず、と読んだのか…。
「やり直したいなんて、本気じゃないくせに。話し合いは、弁護士さんを通してするって決めてたじゃない。…何がしたいの?」
時計を見ながら言った。総司のお迎えの時間まで、そう間がない。夫にはもう帰ってほしかった。
「何って、話だよ…」
「本気じゃないくせに」と言った、わたしの言葉を否定しない。やはり復縁など、架空なのだ。そんなもの惜しくなどないが、少し傷ついたように感じるのは、また総司の存在が捨てられたからだ。
馬鹿げた不毛な話し合いに、うんざりとした。
「話なら、もう終わったじゃない」
「…総司、そろそろ帰るんだろ? だったら、ちょっと会っておこうかな」
ここにきて、唇にだけ薄ら笑いを浮かべる夫をにらみながら、深く思う。総司には、この人は会わせられない。どんなに切ながっても、恋しがっても。関わることは、何の益にもならない。あの子のためにならない。
この嫌悪感をエネルギーに、そう覚悟を決めた。
夫を卑怯でずるくて、身勝手に思えた。今もそう。
でも、わたしが先に、彼とのすべてを捨てたのだ。ほしいものだけを抱いて、逃げ出したのかもしれない…。
そんな思いが、この人を前に、ふっと顔を出す。罪悪感のようで、彼から受けた様々な裏切りの、自分なりの理由付けのようでもある。気味が悪いのだ。訳もなく、恨みを買ったかのような仕打ちを受けることは、どこかで怖かった。
こんな風に、一々根拠を探すのも、わたしの弱さなのだろう。単純に、彼との未来はないだけなのに。不要なら、「さよなら」と一方的に切ればいい。以前、千晶が三枝さんと別れたときのように。あっさりと、ばっさりと。
「総司にはもう会わないで」
できるだけ、すっきりと告げたつもり。彼の目を見て、首を振った。
「帰って。もうそろそろ…」
ダグが来るから、とつなげようとした。そのとき、物音がして、目の端に何か映った。自然に、キッチンから続く、リビングのドアへ目を向けた。
ちらりと影のように見えたものが、人の姿になっていきなり現れ、わたしは面食らった。それが女性で、見覚えのある人で、そして、隣家の安田さんの奥さんだと遅れて気づく。
何で?
なぜ彼女がここにいるのだ。驚きに、ちょっと頭がついていかない。
まごついたまま、
「どうして?」
そう問うのと、勢いをつけた彼女がこちらへ向かってくるのが、ほぼ同時だった。身構える余裕もなく、わたしは弾みのついた彼女の身体を受け止めた。壁にドンとぶつかり、衝撃と違和感に膝が折れた。
腰の辺りに熱を感じ、目をやれば服に血がにじんでいる。慌てて手をやる。指に自分の血が触れることが、この期に及んでも信じられなかった。
刺された?
力が入らない。痛みは遅れてやってきた。ひどい陣痛に似ていて、そのレベルから、傷がひどいのだろうか、とちらりと思う。
既に立ち上がった彼女の手には、ナイフがあった。
「たらたらしてないでよ。言い負かされてるじゃない、いらいらしたわ」
夫へ向けての言葉だ。
痛みにうずくまり、顔をしかめながらも、耳に入る。
「…刺したのか? こんなことしなくても…。どうするんだよ、おい、おい?!」
「任せておいたら、どうなった? 追い出されておしまいでしょ。取るものも取れずに…」
「だって、浮気してないみたいで、こいつ。あんたがそう言うから…」
応じる夫の声は、震えていた。二人の会話から、お金目当てに組んでの計画だったことが知れた。安田さんの奥さんが、マルチ商法に行き詰っていたことを思い出す。多額の支払いが溜まっていると、彼女を探すご主人が、うちを訪ねてきたことがあった。
「見たのよ、男といるの、確かに。そんな雰囲気だった、間違いなく」
「おい。雰囲気って、前は、そんな曖昧な言い方じゃなかっただろ?!」
痛みに悶えながら、奥さんは鋭いと思った。そんな一場面の出来事なのに。恋愛の要素を持った男女の空気感は、きっと特別だ。見る人が見れば見抜かれてしまう。
それでも、証拠など、やはり握られていなかったのだ。それは、こんなときでも大きな救いだ。
どうでもいいから、病院に行きたい。
声を出そうとして、力が入り、苦痛にうめき声が出た。抑えた手指から、血があふれるようににじんでいる。出血がひどい。自分が流す血に、恐ろしさがどっとやってきた。
別れ話のちょっとしたトラブルなどではなく、わたしはきっと重傷を負っている。
「…救急車を…」
かすれる声を何とか出した。
わたしを見た夫が、瞬時に目を逸らし、奥さんへ訴えた。それは泣き声みたいだった。
「電話しよう。苦しがってる。あんなに血が…」
「放っておくの。そのうち、時間が勝手に始末してくれる」
「何言ってんだ、あんた?! 死ぬじゃないか?!」
「…その方がいいじゃない。彼女が死ねば、お金は全部あなたのものよ。その方がいいでしょ? わたしの手に入るにも、そっちの方が都合がいいし」
彼女はそこで、ある金融会社からした借金の返済が、切羽詰まっているのだと愚痴った。
「ちょっと、やばそうなとこなのよ」
「そんあの、俺が知るかよ、だって…」
嫌でも入ってくる二人の会話に、気が遠くなりそうだった。さっき、電話の姉が心配してしてくれたことは、妄想めいた取り越し苦労などではなかった。
夫だけでは、こんな暴挙には出られなかっただろう。暴力的な人ではない。だが、彼には金策に詰まった安田さんの奥さんがそばにいた。不倫をネタに「脅して、金を取ればいい」。そう夫をそそのかしたのは、おそらく彼女だ。
出血のせいだろうか、視界が狭くなってくるのを感じた。
もうすぐダグが来てくれる。先にそれを話しておけば、こんな目に遭わなかったかもしれない。夫との話し合いを立ち聞きしていたのなら、人が来ることを知れば、さすがの彼女も手を引いたはずだ。
痛い。お腹が痛い。
馬鹿なことを止め、救急車を呼ばせようと、わたしはまた声を出した。
「すぐに、ダグが…」
小さなそれは、不意に鳴った電話の音にかき消された。広くもない空間に響くコールに、二人の姿が固まった。かなり長く続いて、それは消えた。
「昼間だから、セールスかしら…?」
彼女はそう言った。そうじゃない。あの電話は、総司の幼稚園の先生からだ。送迎の指定場所に、園のバスが着いたのだ。迎えのわたしの姿がないから、担当の先生が家に連絡してきたのだ。
固定電話が切れた後、ほどなく、わたしのケイタイが鳴り出した。それはキッチンのテーブルに置かれている。園にはこちらの番号も伝えてある。迎えが来ず、困っているのだ。次に携帯電話を鳴らすのは、当たり前のことだ。
ふと、夫がケイタイに手を伸ばした。着信を知らせるそれを手に持ち、画面を開いた。そこで、彼の顔が「あ」と驚くのをわたしは見た。
「やばい。子供の園からだ。近くに迎えのバスが来てるんだ。このまま無視し続けたら、もうじき訪ねてくるぞ。…おい?!」
「誰が来たって、出なきゃいいじゃない。じき、出血で死ぬんだし…。ほら、キッチンでりんごでも剥こうとして、転んで自分でお腹を刺すことだって、あるでしょ?」
ねえよ、馬鹿。
いらだたしく突っ込みながら、早くダグが来てくれることを祈った。
そうじゃないと、本当に…。
浅い呼吸を繰り返しながら、ダグか、もしくは園の先生が来てくれないかをひたすら待った。
鍵は、どうなっているのだろう。開いているのじゃないか。夫がやって来て、ちょっと虚を突かれていた。締めた記憶がない。もし開いたままなら、それを見れば、誰でも不審に思う。
「あ、わたし、鍵締めてくるわ」
思いついたように、奥さんが廊下へ出て行った。こちらの心を読んだかのような行動に、舌打ちしたいが、その元気もない。
夫がわたしに一瞬目を向けた。視線が合う。すぐに逸らすが、動揺と後悔がいっぱいの表情をしていた。それにすがるように声を出す。
「電話…、救急車……」
返事はない。
そこへ、インターフォンが鳴り響く。来た。誰かが来てくれた。小さな悲鳴が聞こえた。どたどたとした足音が、こちらへ戻ってくる。
「誰かが!」
奥さんだ。鍵を締めに玄関に行き、そこで来訪者と鉢合わせしたようだ。先ほどまでのふてぶてしさが消え、両手をこすりながら、うろうろと落ち着きがない。すっかり取り乱している。
「どうしよう、勝手口、どこ?」
逃げる気なのか、首を振りながら探している。狭いキッチンだ。扉は、流し台の隣りにあるのに、おかしなほど視線を泳がせている。
そのときだ。いきなり、リビングから大きな音が耳に飛び込んできた。ガラスが割れたのだ。
割れた個所から、はっきりダグの姿が見えた。パーカーか何かを腕に巻きつけた手が、屋内に入り、しなやかに施錠を解いた。がらりと開いたそこから、身軽気に入ってくる。
「若菜」
その声に、なけなしの力が溶け出してしまいそうだった。
夫が何かをわめき、慌てふためいた彼女が勝手口から飛び出して行ったが、どうでもいい。
駆け寄ってくるダグに、ほどなくわたしは優しく肩を抱かれた。そうしながら傷を見、夫に救急車を呼ぶよう、短く指示を出した。
夫がこのときやっと電話をかけ出したのを見て、壮絶な嫌悪感がわき上がる。この人は、わたしを見殺しにしようとしたのだ。
「もう大丈夫だ。僕がいる」
この声はわたしへのものだ。
彼の腕には、巻いたパーカーがもうない。破片のついたそれを、手早く外へでも放ったのだろう。彼の胸に頭を預けた。吐息と共に、耐えた恐怖も痛みも、流れていきそうに感じた。
出血も多いはずで、気が遠くなる。
 
ああ、
神様、ありがとうございます。
 
心からの安堵が、自然、心で声になった。
実家は寺なのに。
そして、ダグは僧侶なのに。





          


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