ふわり、色鉛筆
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現れたのは、若い女性だった。
二十代半ば、シャツタイプのワンピースを着ていた。栗毛色に染めたボブスタイルの髪は、肌の白い彼女によく似合い、可愛らしい印象の人だ。
緊張からか、こちこち音がしそうなほど、固くなっているのがわかる。景山さんが、新たにコーヒーを運んできた。紫檀の机に滑らかにそれらを載せながら、
「どうぞ、お楽になさいませ」
と、彼女へ優しい言葉をかけてやっている。別にひがむわけではないが、わたしのときには、「庶民の体臭」がするだの、迎えに待たされたから「競馬ブックを買っていた」だの、遠慮が薄かったはず。この差は何なのだろう。
拗ねる訳ではないが、ちょっと面白くない目つきでもしたらしい。すかさず、静かに答えが返ってきた。
「わたくし、二十代の女性には、特に、優しくふるまう習性がございます。ご容赦を」
ああ、そうですか。
穏やかな瞳で、柔らかにこちらへ視線を流す。控えめに上品な挙措だが、言っていることは、厚かましく随分おっさん臭い。
また、桃家さんが景山さんを雑に追っ払えば、千鳥足で部屋を出て行った。
しばしの沈黙。
コーヒーのいい香りが、ふわりと漂う。その中、女性の息を飲む音が、本当にこくんと、ささやかに聞こえた。
「き、今日はこちらへお邪魔させていただきまして、本当にありがとうございます。せっかくごくお親しいサークルさん同士、水入らずに神々のお二人だけで、萌え話しをされていたところを、わたしみたいな『買い専』者がお邪魔しまして、申し訳なく思います」
まず、彼女は桃家さんへ深く頭を下げ、改まった礼を述べた。きちんとした子だな、と思った。二三、ひっかかる単語はあったが…。
「いいの、いつも歯に衣着せない身内ばっかりの馴れ合いじゃ、気も置けなくて、刺激もないもの」
桃家さんは、彼女へ鷹揚にそう返した。
いつ、わたしと桃家さんが、歯に衣着せない、気の置けない「身内」になったのだろう。オフで会うの、二度目だってのに。
訂正するのもややこしそうで、「合同誌の打ち合わせも、今日は、もうこれ以上詰めないしね」と、わたしへ確認のように言うから、桃家さんへ頷いて、そのくだりを終わらせた。
ま、いっか。
「ま、まあ、合同誌ですか?! 神のお二人で」
お客の彼女が、上ずった悲鳴みたいな声を上げるから、びっくりして、コーヒーカップを持つ手が滑りそうになった。
「うわ、すごい情報聞いちゃったな…、きゃあ、どうしよう。黙っていられないかも…」
彼女はそんなことを、夢見るようにつぶやいた。そこで、ふと我に返ったのか、ぺこりとわたしへ頭を下げた。
「覚えていらっしゃいますでしょうか? 以前のイベントで、本を買わせていただいた際、サインをお願いした者です」
あ、と記憶がよみがえる。お客の一人に、スペース前でノートブックを差し出されたことを思い出した。真新しい紙面にペンを走らせるのに、ちょっと気後れした感覚も、ゆっくりと思い出す。
ああ、あの彼女か…。
「買わせていただいた本、大好きで、宝物みたいにしています」
「あ、どうもありがとうございます」
「お上手なのは、もうわたしなんかが言うまでもなくって。鉛筆画の風合いも憎いくらいにこなれてて、お話も展開も無理がなく滑らかで。読み手をぐいぐい引っ張っておいて、それでもって、ぽんと突き放したみたいなエンディング! 最高です。わたし、確信しました、「神を見つけた!」て」
潤んできらきらとする瞳と、熱っぽい語りに圧倒されそうになる。「はあ、どうも」と、やや身を引きながら、応じた。
「…それと、大きく割られたコマに込められた意味合いなども、土曜の晩に焼酎のカルピス割りを飲みながら、じっくりじっくり何度も考え直しています」
そこで彼女は、ほうっとため息のように長く吐息した。頬を赤らめているから、興奮し、褒め過ぎたことを恥ずかしがっているかと思えば、
「わたし、いろはと申します。僭越ながら、ブログで勝手な同人萌え語りをしています。個人的にプッシュする作品をご紹介させていただいたり、出かけたイベントのレポートもしています」
いろは、という愛らしい響きの名は、確か総司の幼稚園のお友達の中にいたな、とちょっと思い出した。姓もなく、ブログをやっているというのだから、ペンネームなのだろう。
「同人界じゃ、結構有名どころのブログよ。わたしも『スペース・やくざ』を載せてもらったこともあるの」
とは、桃家さん。
「ふうん」
そういう交流から、今日のオフにつながったのか。
「雅姫さん、イメージ通りの方です。しゅっと姿が良くて、おきれいで。フェミニンなのに、ちょっとボーイッシュな感じも、素敵です」
こっ恥ずかしいコメントをいただき、こっちが茹でダコになりそうだ。
「とんでもない」
関係ないが、何気なく彼女が使ったろう「姿が良くて」という言葉に、社長を連想した。あの人はそんなことを「イタリア帰りだから」という、訳のわからない理由で使っていた。そう、社長といえばブランドのバックだ。
返してもらえるよう、その後本社に行き、受付の女性に手渡したが、あれから何とも言ってこない。女に贈り物を突っ返されて、つむじを曲げているのかもしれない。
ま、いっか。手元にあるよりましだ。
いろはさんは、わたしの作品もブログで紹介させてもらったと、勝手の事後報告を詫びた。
わたしは、オフのみ、またにわかにやり出した同人者だ。本には、連絡先の一つも記していないのだから、報告のしようもない。こっちの都合だ。謝ってもらう理由がない。
「いいえ」
と応じた。
いろはさんはこちらへ身を乗り出し、
「反響、大きいですよ。もうすっかりコアなファンの人までいて、驚きました。中で、交流のある方とメールのやり取りをしてみて、わたし、初めて知りました…。まったくお恥ずかしい。こんなレベルで、同人ツウぶっていたなんて、本当に赤面モノです」
「はあ」
「あの、伝説の神サークル『ガーベラ』の雅姫さん、でいらっしゃるんですね」
そこで、桃家さんが合いの手に、
「そうよ、あの『ガーベラ』の最後の生き残りよ」
いやいや、千晶は死んでないって。むしろ、昔より断然輝いていますから。
「最後の、…生き残り」と、いろはさんもが重々しく繰り返す。何で、二人とも、千晶を殺したがるのだろう。
「新刊を手に入れるためには、数多の徹夜組も当たり前。熱狂的なファンも現れ、護衛のため、私設のボディーガードを雇っていたのだそうですね。イベントごとの本の発行部数は、同人界では天文学的な数字だったとか…」
いろはさんの熱い語りに、いい香りのするコーヒーを、ふき出しそうになった。
ある程度はこっちの当時を知っている桃家さんは、訂正もせず、修飾過多な話を頷きつつ、お茶請けのハトサブレーをぱりんと割ってなどいる。
苦笑いしながら、首を振り、
「「ボディーガード」なんて、とんでもない。あの頃、ちょうど千晶に出版社からスカウトの話があって、その担当の人が、本の売れ行きなんかをチェックに来ていただけ。あんな場でスーツだから、目立っただけですよ」
イベントごとに頻繁に顔を出すから、気安く話すようになって、会場の出入りに、本の搬出とか撤収とかを手伝ってもらうことも多かった。それが曲解されて、噂になったのだろう。
「本の数だって、「天文学的」だなんて…。所詮同人誌ですよ。そりゃ、今に比べれば、たくさん刷った記憶はあるけど、素人だもの、知れてます」
いろはさんは、わたしの返しにぶるんと首を振り、「わたし、実は、某印刷所に勤務しているんです。○○印刷企画です」と、打ち明ける。知った社名だった。気に入って、確かに昔、よくそこで本の印刷をお願いしていたものだ。
「同人誌御用達のような会社だから、今も昔も、大手やそうでない同人の方々が利用されています。その社内で、語り継がれている黄金伝説が、「『ガーベラ』さんほど、刷ったサークルはない」です。同人歴の長い先輩曰く、「『ガーベラ』の前に『ガーベラ』はなく、『ガーベラ』の後にも『ガーベラ』はない」だとか…。金言だと思います」
「そんな…」
と受けたが、その後が継げない。ははは…、とから笑いで後を濁した。
「すごかったわよ、本当、あの頃の『ガーベラ』さん…」
と、桃家さんまでがそんなことを言う。ハトサブレーを手渡してくれた。
「きらきらしていてね、ちょっと近寄りがたいほどだったわ。雅姫さんは、ほら、隣りのスペースのとき、わたしに朝食の鯖寿司分けてくれたわよね。徹夜か真っ赤な目をして、ジャンガリアン・ハムスターみたいに、ぱんぱんに頬張りながら、「食べません?」て。そんな姿も、何かかっこよくて、まぶしかったわ。…千晶さんは、何にもくれなかったけど」
「そうだったかな…。よく覚えてない」
昔を手放しで褒められるのは、ひどく照れ臭い。ここには千晶もいないのに。
卑下する訳ではないが、今のわたしは、パートで家計を助ける子持ちの主婦でしかない。たまさかに、昔を思い出して、また漫画を描いているだけのことで…。
わたしは割ったハトサブレーを、適当に口に詰め込んだ。
「ほら、そんな感じ」
桃家さんが、自分の頬をちょんと指す。朝食に鯖寿司をせいぜい頬張っていたという、昔のシーンをいうのだろう。
「忘れちゃってるのは、雅姫さんだけよ」
 
え。
 
ぼそりとした何気ない声だった。でも、それには、ぽんと顔の前で指でも鳴らされるような、ちょっとした衝撃があった。
彼女に、いろはさんが大きく頷いて同意を示した。
「覚えている人は多いですよ。パートナーでいらした千晶さんは、今の真壁千晶先生ですし。それに、何ていったって『ガーベラ』さんは、伝説ですなんから!」
力説する根拠は、きっと同人歴の長いという職場の先輩なのだろう。若い彼女が、古い『ガーベラ』の存在を知ったのも、その辺りの入れ知恵なのかもしれない。
ともあれ、過去をやたらに持ち上げられるのは、むずがゆくてしょうがない。『ガーベラ』は、わたし一人の個人サークルではなく、千晶という相棒があってこそのものだ。その彼女のいない場所で、手柄顔をして聞いていられる話ではなかった。
「あははは」
やはり、わたしはから笑いで受け、流す。
いろはさんが興味を持ってくれているようなので、次のイベントで桃家さんと出そうと決めた合同誌の話へ話題を変えた。
「…ふうん、なら、よかったら挿絵とか表紙ぐらい描かせてもらおうかな。アンさんのイメージに合えば、だけど」
「え?! ゲスト寄稿不可、門外不出が絶対ルールの、激シブチンサークル『ガーベラ』出身なのに。雅姫さん、いいの? いいの?」
身をのけ反らせて、大げさにそんなことを言う。まあ、実際当時はね。
互い以外にはよそに描かないのが、千晶と決めた掟のようなものだった。理由は、自分の原稿に忙しいのと、ゲスト寄稿し合って起こるもめ事を、避けるためだ。結構、人気サークルでいろいろあったらしいのを、耳にしていたから。
「合同誌のお話、それ、早めにブログに載せちゃってもいいですか? いや、ぎりぎりまで伏せた方が…」
興奮気味にいろはさんが飛びつく。それには「お好きにどうぞ」と答えておいた。正直、わたしには、どっちでもいいことだった。
その後、楽しく話し、時間を気にして一時間弱ほどでお開きになった。
別れ際、巨大な玄関まで見送ってくれた桃家さんとは、「メールするね」と交し合った。そこへ、いろはさんが、涙目をにじませた瞳を向け、
「読み専・買い専の分際で、おこがましいのですが…、これでご縁が切れてしまうのは切なくって…」
と、メールアドレスを訊かれた。涙ぐむほどのことでもないし、別に「おこがましく」などない。パソコンは普段いじらないので、「ケイタイのでよければ」とアドレスを交換し合った。
「うほっ」
いろはさんは、こぶしで胸をぽんと打つ。嬉しいようだ。ちびゴリラのようなガッツポーズをするからおかしい。
 
その夜、さっそくいろはさんからケイタイにメールが届いた。
『神々の語らいに〜』から始まる本文は、少々長いが、丁寧でやはり熱い。彼女が書いている同人語りのブログの紹介もあった。
夫が使う前に、とリビングのパソコンでのぞいてみた。
『イ・ロ・ハ・便り 〜同人誌の海に埋もれたい〜』と題されたブログは、彼女お気に入りのサークル作品の感想に、イベントのレポートなど、ぎっしりだ。コメントも多くついている。桃家さんが言っていたように、人気のあるブログらしい。
ほんの斜めに眺めただけだが、苦笑しか出てこないような文面がちらほら目に入るのだ。
『いろは一押し、大っファンを自認させていただく、スーパー神と本日、お会いすることができました〜。今もって、興奮が冷めません><。ひ〜』。
『この神は、いろはが言うもはばかられるような、すんごいご実績のあるお方でして(常連の方には、もうピンとくるかな(笑))。お優しくて、わたくしが思う、神としてのあらまほしいお姿そのものの、すんごく素敵な方でした。ハアハア。でも、やっぱり神オーラは健在です!! ご本人は、全く、ナノレベルでお気にされていないようでしたが、…〜』
これらの記事には、さっそく返しのコメントが何件も入っている。
 
ははは…。
 
「何してんの?」
お風呂上りの夫の声に、慌ててページを閉じた。
「ううん、何でもない」
装飾が60の、錯覚が20、誤解が15ほどに、真実が5もあるだろうか…。交流のあるサークルさんには、皆、似たように過剰に踊った文面を書いているはず。
だけれども、恥ずかしさとおかしさの陰で、嬉しくて、気持ちが跳ねるのも事実だ。
 
同人って、やっぱり楽しい。
 
 
「いろはさん」が、「いろはちゃん」に変わるまでに、そう時間はかからなかった。
幾度ものメールのやりとりに加え、また桃家さんの邸宅で会うことがあり、ぐっと距離が縮まった。
いっていて二十代の中頃かな? と見ていた彼女が、もう三つほど上のアラサーであることも驚きだった。同人話のノリがよくて、会話も(大げさだが)面白い。
社会人であるだけ、きちんとしていて、うんと年上のわたしが「へえ」と感じ入るような卓見を口にすることもあった。
その彼女からもらった、アドバイスのメールに、
『〜宣伝も重要だと思いますよ。売れている方は、そっちもお上手な方が多いようです』
とあった。
前のイベントで桃家さんに委託してもらった本は、ありがたく完売した。費用の面でカツカツなのもあり、五十部刷るのが精いっぱいだった。在庫はできれば持ちたくない。昔に比べれば、「あは」というほどの数ではあるが、今のわたしにはそれが限度だ。
完売したのは嬉しいが、その売り上げのほとんどは製本代に相殺し、消えてしまった。少しの残りは、総司に新しい服と水着を買ってやり、おしまい。次の本のためのお金など、とてもとても…、賄えるものではない。
相変わらず、夫の就職も上手くいかず、失業手当もとうとう切れた。パートの給料では、毎月の出費に足が出る分を、叶うのなら同人活動で補えたら、もし…、と、そんなことを切実に考えだした。
間違っているかもしれないし、不純でもあるのかもしれない。でも、趣味に家計の助けになる程度の実益が付くのは、そう非難されることではないように思うのだ。
お金のないことは、悪ではないが、ないことで、お金があらゆる余裕を運んでくれていたことに気づかされてしまう。気持ちのゆとり、責めない優しさ、先への希望……、数えれば、きっときりがない。
結局、同人誌の製本代にと、もう最後、次できり…、と仕事のたびに思う『紳士のための妄想くらぶ』の方も、数は減らしても、まだ辞めてしまえないでいるのだ。
ちょっとせっぱつまったような思いが、いろはちゃんへの問いに出たのだろう。『どうやったら、もうちょっと、本売れるかな?』と。
彼女からの助言は、わたしには新鮮だった。これまで、ただ描いて、本にして、売ることのみを考えていた。
宣伝か…。
更に、いろはちゃんは、
『イベントでのオフ活動の告知ページ程度は、今は絶対必要ですよ!! 通販の〜』
とも書いてくれた。
ネットの知識はほとんどない。ショッピングとか、何かの申し込みや調べものに使う程度で、どうやってそんなものを作るのか、そこからもうちんぷんかんぷんだ。
そんなわたしを見越してか、彼女は親切にも、
『ブログなら、無料レンタルで簡単に作れますよ。今度わたしがお教えしますから、一緒に作りませんか? 散らかったあばら家ですが、うちでならゆっくりできますし、マイPCもあります。ぜひよろしければ、おいで下さいませ。ぺこり』
 
無料。
 
という訳で、ありがたく彼女の申し出を受けた。
 
 
その日は、パートの方が休みだった。
夫と軽い口論をした後で家を出、いつも通り『紳士のための妄想くらぶ』で、バススタッフを三時間ほどこなした。
この時期、ユニットバスでの仕事はかなりきつい、指名上がりの都度、水分補給に備え付けの(おそらく、スガさんの自腹)、イオン飲料を一缶飲まないと、身体が持たないくらいだ。
いろはちゃんは、家の近くの目印となる、テイクアウト専門の一口餃子の店の前まで出てくれていた。そこから、彼女の家までは、歩いて五分とない。
洒落たマンションだった。エクステリアや雰囲気、内装から、賃貸ではなさそうだ。きれいに片付いた室内は、落ち着いた印象のインテリアが配されていた。その、素敵なところどころに、リラックマが見えるのは、実に彼女らしくて楽しい。
リビングのテーブルに置いた、彼女のものらしいノートパソコンで作業が始まった。といっても、彼女の指が華麗に動くのを、わたしは横で眺めているだけだ。
「デザイン、これでどうですか?」
と訊かれれば、「うん、いいと思う」。
「こっちの方が、雅姫さんぽいかも…?」
とくれば、「ぽいかも」。
ひと段落し、彼女が淹れてくれた紅茶を飲みながら、わたしが持参したケーキを食べた。いろはちゃんはブログの管理についてあれこれ教えてくれながら、ふと、目を閉じ、深く息を吸い込む。
「雅姫さんて、いつも湯上りみたいな、しゃぼんのいい匂いがする…。神は、まとう空気感からして違いますね」
「ははは…」
本当に風呂上がりだから。
「あ、そうだ。リンク、してもいいですか? そこからお客が流れてくれると、イベントのときとかも、スペースの賑わいが違うと思いますよ」
「ほんとう? お願い」
お茶をしつつ、彼女のブログ『イ・ロ・ハ・便り〜』にリンクをつないだり、ささっと短い時間「神ブログが開設されました!!」と記事を上げる。あなたの方が、絶対「神」だと思う。
そのとき、玄関で、鍵を開けるようなガチャっという音がした。
「あ、帰ってきた」
と、いろはちゃんがつぶやいた。家族の誰かが帰宅したのだろう。これ以上居座っては、迷惑かもしれない…。わたしは「そろそろ…」と今日の礼を述べ、暇を告げた。
「そうですか? じゃあ、せっかくだから、駅までご一緒に。お送りますね」
「そんな、玄関でいい」
そこへ、床に大きな荷物を置く音に続き、人の気配が漂った。何気なく振り返り、背後に立った家族の男性に、頭を下げた。
「お邪魔しています」
「いろはの友達ですね。慌ててお帰りにならず、どうぞごゆっくり…」
「いえ、もうそろそろ…」
バックを肩にかけながら、顔を上げた。コットンのパンツの脚、白いポロシャツの姿が目に入った。何気なく、目が合った。
記憶と今が焦点を結ぶのに、わたしは、多分彼よりも時間がかかった。彼の声とその驚いた表情にこそ、わたしは昔を鮮やかに見たのだ。
「…雅姫か?」
 
え。
 
日に焼けた肌。少し眠そうに、ほっそりと見える瞳、形のいい唇は、わたしの名を呼んだまま、ほのかに開いて…。
「沖田さん?」
 
どうして、彼がここに…。





          


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