ふわり、色鉛筆
9
 
 
 
時が、わたしの中でほんのわずかだけ、止まった。
いろはちゃんの、
「あれ、遅くなるんじゃなった?」
の声に、我に返る。ふと、沖田さんはどうだろう、と彼を見れば、同じく彼女の声に、はっとしたように、わたしから視線を外すのが知れた。
「あっち、急に天気が崩れ出してな…」
そんなことを言いつつ、視線がうろうろとこちらへ向く。
驚いているのだろう。わたしだってそうだ。
わたしたちの、「雅姫か?」、「沖田さん?」の互いへの問いが、いろはちゃんには怪訝に違いない。子犬が何かを嗅ぐように鼻をきゅっと寄せ、
「何で、雅姫さんを知ってるの? 雅姫さんも…」
「え?」
沖田さんは首のあたりをかきながら、
「あれだ、まあ、その…、こいつとは…」
などと、言いあぐねている。上手い説明が、すぐに浮かばないらしい。そんな濁し方では、わたしたちの間に何かあったように聞こえてしまう。隠すほどの仲ではないし、秘密など持たない。
わたしはちょっと笑いながら、彼へいろはちゃんを目で示し、
「娘さん?」
と訊いた。
問いに、「は?」と絶句する。
「お前、俺を幾つだと思ってる? そんな訳ないだろ。妹だ、妹」
「ふうん」
ついで、盛大に不思議顔のいろはちゃんへ、彼と知り合いの訳を簡単に話した。
『ガーベラ』という同人サークルを千晶としていた時代、イベントに出版社の社員が手伝いをしてくれたことがあるとは、彼女に言ったことがあった。その事実がどこかでねじ曲がり、「私設のガードマンを雇って〜」などという、間違ったトンデモな噂が生まれたのであるが。
沖田さんは、その当時の社員の一人だった。
「兄貴が? あの…、あの『ガーベラ』さんの担当?! 何で、何で言ってくれなかったの?」
「訊いたことないだろ? いろは」
いろはちゃんて、本名なんだ…。てっきりペンネームだと思い込んでいたから、ちょっと驚く。可愛らしい名であるし、きっと愛着があるのだろう。
「うぬぬ…、兄貴がすぐに言ってくれていたら、わたし、もっとずっと早くに雅姫さんとお近づきになれたかもしれないのに…」
「『イ・ロ・ハ便り〜』管理人として不甲斐ない。灯台下暗しって、こんなことを言うんだ、絶対。もう、身内のリークすら出来なかったなんて…」と、お兄さんをじろりとにらみながら、地団太を踏みかねない勢いだ。
「あはは…。でも、沖田さんに『ガーベラ』のこと聞いていても、その頃はわたし、まだ同人再開してないと思う」
軽い調子でなだめれば、わたしの言葉を沖田さんが拾う。
「雅姫、また描いてるのか?」
そこにどうしてか、わずかに咎めるような響きがあった。風に、顔に柔らかい葉でも触れたような感じ。
「うん、またちょっとね…。それで妹さんとおつき合いができて、今日お邪魔していたの。じゃあ、失礼します」
ちょんと頭を下げ、リビングを出た。すぐにいろはちゃんが追いかけてきた。
「兄貴が失礼を〜」とぺこぺこ詫びるから、手を振って、ううん、と首も振る。
「ちっとも。何にも失礼なんかされてない。こっちこそ、今日はありがとうね。すごい助かった」
靴を履くため屈んだ。そのとき、かすったのだろう、壁にもたせ掛けてあったゴルフバックがぐらりと傾いだ。支えようと慌てて手を出せば、わたしが触れるより前に、それが元の位置に戻された。
沖田さんだった。
「送ってく」
その声は、軽やかであるのに、有無を言わさない調子を持っている。返事をしかねていると、「ほら」と、肩をぽんと叩いて促す。わたしは、過去にそんな彼の仕草を知っていた。
「…うん、じゃあ」
断る理由もなく、そう答えた。
 
 
駅まで送ってくれると言った。
促されて乗り込んだとき、あ、と気づいた。先月だったか、我が家が手放したハイブリッドカーと同じ車種だった。色と内装がかなり違って感じたので、ハンドルのエンブレムを見るまで、そうとわからなかった。
関係ないけど、我が家の物だった車より、うんとグレードの高い奴だ。関係ないけど。
「帰ってきたばっかりなのに、ごめんなさい。疲れてるんじゃ…?」
車は駐車場から、ゆっくりと敷地の外へ滑り出す。
返事がない。沈黙も居心地が悪いので、「どこか、ご旅行だった?」と訊いた。
それには、声が返ってきた。
「仕事のつき合いで、ゴルフ。静岡の方まで行ってた」
「ああ。それはそれは…」
そういえば、ゴルフバックがあったのを思い出す。
ちらりと運転席の沖田さんを見ると、日に焼けた横顔は、わたしの知る彼より落ち着いて、精悍で、逞しく目に映る。へえ、男前になったな…、と変なところで感心した。にわかでなさそうに、腕も首もこんがりと日に焼けている。つき合いだというゴルフへも、きっとよく出かけるのだろう。
昔、初めて会ったときもらった彼の名刺には、若い女の子向けの受け狙いか、ボールペンの手書きで、『好きな食べ物:うまい棒とガリガリ君』と書いてあったことが、ふと頭に浮かぶ。
実際、好きみたいで、よくイベントの売り子(もしてもらっていた)の合間に、がりがりかじっていたのだ。
四十だっけ、この人、確か…。もうさすがに食べたりしないんだろうな、うまい棒なんか。
あの頃、頬によくぽつんとこしらえていたニキビもない横顔は、すっきりと整ってきれいだった。当時、千晶と二人で、互いにクレアラシルを塗りこんであげたりして、じゃれるように遊んだっけ…。
もやもやと湧き上がる思い出をかき分け、言葉を継いだ。
「沖田さんに、あんな可愛い妹さんがいたんだ…」
「普段はそうでもないのに、同人絡みになると、ぎゃあぎゃあうるさいぞ。春コミだの夏コミだの、どこのイベントがああのこうの…。彼氏もつくらないで」
「あはは、お兄さん譲りかな、そこは。沖田さんだって、昔は春も夏ももちろん、あちこちのイベントに出張って歩いてたじゃない」
「あれは、仕事だ」
「へえ…、よそのサークルさんのエロエロのいただき本、むさぼるように読んでたじゃない」
「馬鹿、どこにダイヤの原石が転がっているかわかんないだろ? 調査の一環」
「『RI・LA・LA』(少女向け人気漫画雑誌)の編集者が? ハードエロ同人誌で?」
「うるせー」
「あははは」
そこで沖田さんが、咳払いを一つ。強引に話題を変えた。
「おい、千晶には会ってるのか?」
「…ううん、全然。今は、もう年賀状のやり取りくらいかな…。あの子もすっかり堂に入った売れっ子で、忙しいだろうしね」
「沖田さんは?」と問えば、「先週会った」と返ってくる。彼女が、今年の○○漫画賞を受賞した際に、そのプレゼンターの一人として授賞式にいたというのだ。
わたしは、きょとんとした顔をしたのだろう。彼は自分が今、社の専務であるということを、もそっとした口調で言い足した。
「三枝さん、覚えてるだろ? あの人に引き上げられたんだ。本人は今、副社長に就いてる」
三枝さん、というのは、『ガーベラ』の現役時代、幾度か会ったことがある。この沖田さんの上司で、当時、部長だかその補佐だったかの地位にあった人だ。千晶のプロスカウトの話が進む中、接待まがいに小洒落たお店でごちそうになったものだった。
「千晶がプロになっても、活躍し続けてくれたお陰だ。本も売れたし、アニメ化だの映画化だので、うちはかなり儲けさせてもらったから」
「ふうん…。人気あるもんね」
「三枝さんなんか、社の自分の部屋に、千晶の描いた『ふわり』(千晶の人気漫画のキャラ)のイラストを額に入れて、毎日柏手打って拝んでるんだぜ。用で行ったら、俺も拝まされる」
すべてを千晶のお陰と、笑い話にしてしまっているが、それだけではないはずだ。確かに彼女の功績も大きかろうが、他、三枝さんも彼も有能だったのだ。でなければ、業界一位二位を争う、あの大きな社内で頭角を現していけるはずがない。
「ご立派になられて…」
ややも畏れ入ってしまい、声がひきつる。短い沈黙の後では、彼女の名が当たり前に口をつく。
「千晶どう? 元気にしてる?」
「ああ。毎度、アシスタントが使えないだの、担当と合わないだの、相変わらずぶつぶつ言ってるが、元気は元気だ」
「ふうん」
千晶は漫画に関しては、元々ストイックな方だった。一人描きが好きで、またそれをすいすいこなせてしまうのだ。プロとなってからは締め切りや制約もあり、一人で描いていく、という同人時代のスタンスでは難しいのだろう。
「若菜以外は、原稿触られるの、ちょっと嫌だな…」と、そんな声が、耳に聞こえそうに甦った。不平をこぼす彼女の横顔も、ふっと鮮やかに浮かんでくる。
ついで沖田さんは、彼女の漫画の映画化が、ハリウッドで決まったと教えてくれた。その契約の件で、彼自身も渡米していたのだという。
「ハリ…ウッド…、はあ…」
「千晶がまたそれで、ぶーたれて…」
と彼は笑って話すが、あまりに壮大で縁遠い話に、「はあ」としか相槌が打てない。単純に、すごい、と心で唸るのみだ。彼女との距離を、「遠い」と感じたこともあったが、そうではないだろう。
多分、もう住む次元が違っているのだ。
「会うと、お前の話も出る。こっちに帰ってきたんなら、連絡くらいしてやれよ。寂しがってるぞ、あれで大先生も」
千晶から、わたしが夫の転勤について、あちこち住所を変えていたことは知っていたのだろう。沖田さんは当然に「帰ってきたのなら」と言う。
「うん、そうだね」
信号待ち止まった。
そのとき、彼がわたしを見た。それは強い視線で、「何?」と、思わずたじろいだ。
「お前、また描いてるんだってな、漫画」
「うん、…まあ、ちょっとね。子供も幼稚園行き出したし、少し時間もできたの」
「子供、幾つ?」
「あ、四歳」
「ふうん…」
子供の名だとか、夫の仕事のことだか…、これ以上家庭のことを話すのは避けたかった。嘘は言わないまでも、本当のことも言えないような気がするから。
「沖田さん、結婚は?」
それに彼は、ゆらっと首を振って、答えに代えた。ちょっととっつきにくいような顔をするから、「多重バツ」なのかもしれない。地雷らしい。その件には、もう触れないようにしよう。
わたしは、車が動き出したのを機に、いろはちゃんに宣伝のブログを作ってもらったことを話した。兄であるのだし、どういうつき合いであるかくらい、知ってもらうのもいい。
「宣伝? 雅姫が?」
犬が喋ったのを聞いたみたいに驚くから、おかしい。今はそれが普通らしいよ、と言い添えた。
「朝飯の鯖寿司、ぱんぱんに口に詰め込みながら、「じき売り切れるから、即撤収してディズニー行こう。昼前に着けるから」とか言って、スペース設営していたお前が? 宣伝?」
何で、桃家さんにしろ沖田さんにしろ、わたしが、朝ご飯に鯖寿司食べていたことをよく覚えているんだろう。
「売れる人は、そっちも上手なんだって。いろはちゃんが教えてくれたの」
沖田さんは、わざとらしく「はあ」と長く吐息し、半笑いで、「売り上げを気にする雅姫。時代か…」などと嫌味臭い。
うるさいな、このオヤジ。
「まあ、気楽に楽しんでるんだろ? 趣味で同人を」
そんなところで話を着地させようとしている。彼が、ちらりとこっちへ顔を向けたとき、わたしは多分、笑顔ではなかった。
傷ついたとか、怒ったとか…、そういった顔も、多分、していなかっただろうが。ほんのわずか、頬が引きつっていたのは、知っていた。知らずもれた、細く長い吐息には、自分でも驚く。
同人活動の収入で家計を補えたら、とあれこれ模索画策している身だ。とても、「気楽」などではないのだ。
描くのは好きで、もちろん楽しい。
描いたものを褒めてもらえるのも、心が躍る。
描くことを通して得た、人との交流も嬉しい。
でも、
 
銭勘定が切実なのは、ちょっとアレで、きつい…。
 
製本代を工面するためには、まだしばらく『紳士のための妄想くらぶ』は辞められないだろう。そして、そのお金でもって、どれほど本を刷ればいいのか迷う。
いつまでも無難に五十ばかり刷っている訳にはいかない。それでは、利益がほぼ出ない。また、儲けを見込んでたくさん刷れば、今度は売れ残ったときが厄介だ。少部数ならまだしも、二ケタ超で余れば、目も当てられない。確実に次回、その本がはける保証などないのだ。
そもそも、イベントの都度、売り切りに近くなければ、家計の足しどころか、次の製本代が出ないから、また本のために「バススタッフ」の日々が続く…。
堂々巡りだ。
きっととびきりの有卦に入っていた、『ガーベラ』の過去しか知らないわたしの、こんなぼやきなど、甘ったれでしかないのはわかっている。専業で同人をやっている人ならば、多少の差異はあれ、常にある悩みだろう。
少しずつ、探りながら、前に進むしかないのだ。
今日だって、いろはちゃんに宣伝用のブログだって立ち上げてもらった。それだって、昔の同人しか知らないわたしにすれば、大きなステップアップに違いない。『ガーベラ』ではない、雅姫の『スミレ』にとって…。
「あははは」
きっと取り繕ったような笑みだったのだろう。「おい」と、様子をちょっと探るような声がかかった。
「暑いね、毎日」
気を取り直し、そんなことを返せば、すかさず不機嫌に、ちっと舌打ちが、聞こえた。
 
はあ?
 
十三年ぶりに会った(互いにそんなに会いたかった訳ではなかろうが)知人に対して、舌打ちかよ。と、若干気分が悪くなった。
言葉を探すのも面倒になり、窓を見て黙っていれば、不意に路肩に車が寄り、間もなく停まった。ハザードを点し、
「ちょっと待ってろ」
と、問う間もなく、沖田さんが車を降りて行った。どこへ、と目で追えば、歩道脇に出店している、テイクアウト専門の一口餃子の店で餃子を買っていた。今日、いろはちゃんと待ち合わせた場所だ。
 
え?
 
なぜ、ここで餃子を…。
そんなに、マイペースな人だったかしらん、と、行動が不思議なのと驚いたのとで、もやもやと胸にわいた怒りも冷めた。
ほどなく、袋を提げ、彼が戻ってきた。心地よく冷房の効いた車内に、あっという間に餃子の匂いが立ち込める。
「ほれ」と、わたしにその袋を突き出す。
「ボウズに食わせてやれ。旨いぞ、ここの。つまみに、俺もいろはもよく買う」
怪訝な顔をしたはず。それに、彼はちょっと笑い、
「もう食うだろ? 四歳なら」
「うん、食べる。あの、どうも、ありがとう…」
膝に乗せた餃子の袋は、ジーンズの脚に、ほかほかと熱かった。
 
 
最寄りの駅まで送ってもらい、そこの駐輪所に停めた自転車で家路についた。
玄関を開ければ、ドアの半開きになったリビングから、結構な音量のテレビの音がする。リズムから、『笑点』のようだ。その音に、日曜の暮れを突きつけられる。
ソファにもたれ、低いいびきをかきながら、夫は眠っていた。そのそばで、総司がこの前買ってあげたおもちゃを、今も懲りずにいじくり回している。
ローテーブルには、いつものように昼の食器が乾いて残っていた。干した洗濯物の山が崩れ、新聞だの、ダイレクトメールだの、お菓子の箱だのが、ごみのように床でごっちゃになっている。
目になじんだ毎日の光景。頭にはこないが、夫へ「ちょっと片付けてくれたって…」程度のぼやきは出る。だが、日々のことで、幼い子供もいるのだ。主婦が家を空ければ、どの家も、これと似たようなものかもしれない。
洗濯物をたたんでいると、夫が目を覚ました。「何か、匂わないか?」と言うので、キッチンを顎で示し、
「餃子。おいしいんだって。買ってきた」
「へえ。いつも「節約節約」言ってんのに?」
「たまにはね…」
起き抜けに、うんと伸びをする彼の腕が、なまっ白いのに、山からタオルを引き寄せるとき、ふと目がいった。普段は気にならないのに。ちょっとびっくりするほど、彼の腕は白くひ弱に見えた。
もう一年以上、通勤をしていないからだ。以前は、肌の白さが目につくような人ではなかった。ほぼ毎日、自転車でパートだの買い物だので出かけるわたしの方が、まだ焼けている。
ゴルフ焼けをしていた沖田さんのそれと、目が、自然に比べているのだ。
見ていたくないと思った。
目を落とし、手元だけを見ながら、重くて嫌な気分をやり過ごした。
 
夕飯には、もらった餃子を温め直して出した。
一口餃子は好評で、三十個載った皿が、あっという間に片付いた。香味野菜が効いているのに、総司までもが、気にせずパクパク食べる。わたしが手作りする、ツナ餃子は残すくせに…。
「また買ってきてよ」
と、夫も、機嫌がいい。
「そうだね、また今度ね」
さりげなく返しながら、わたしの気持ちは、おかしなほどに沈んでいるのだ。
食器を下げ、シンクに置く。
餃子はおいしかったし、一食浮いて、楽もできた。
なのに、
 
どうしてだろう、みじめな気分だった。
 
旧友の千晶の活躍に、自分との大き過ぎる隔たりを思うことはある。けれども、それでわたしは、己をみじめに感じたことはない。
今日だって、沖田さんに会い、彼から彼女の更なる発展を耳にしたが、それで胸が騒ぐこともなかった。単純にすごいと思い、素直に、彼女の成功をそのまま称えた。
千晶のことではない。
ごしごしと荒く扱ったスポンジの泡が跳ね、右目に入った。手肌はいたわるくせに、目にはすこぶるしみる。痛い。
何度も目をしばたいて耐えるうち、生温かい涙がこぼれてきた。泡の入った右だけではなく、両目からぽろぽろと。
堪らず、
「総司、ママにティッシュ持ってきて」
ほどなく、総司が箱ごとティッシュを運んできてくれた。「何で泣くの?」と、わたしへ突き出す総司の腕も、幼稚園での外遊びのせいか、きれいに日に焼け始めている。
「ありがとう。餃子かな」
ティッシュで目を抑え、涙を始末し、ほっと息をつく。
再び食器を洗い出しながら、気が滅入るのは、別の…、とうろうろと心を探ってみる。そう迷いもしないうち、答えが、はらりととこぼれるように顔を出す。
 
よく焼けていた沖田さんの腕と、そうでない夫の腕を、わたしは鮮烈に比べ続けている。
 
だから、自分がみじめで、ひどく嫌なのだ。
リビングから、テレビの野球中継に混じり、総司と夫の声が届いた。
「ママ、泣いてた」
「ふうん、何で?」
「餃子のせいだって」
「はは、そんな訳あるかよ」
 
そして、彼と比べながら、夫へ、軽い苛立ちを覚えている…。
 
そんな自分に驚き、わずかに肌が粟立つのを感じるのだ。





          


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